ピアノ+ギター+べ一スという
トリオ編成が大好き
私が初めて彼の演奏に接したのは半世紀ほど昔です。当時LPはまだ発明されていませんでした。78回転のシングル盤(落とすと割れるヤツ)の両面に「オスカーズ・ブルース」と「いつかどこかで」の収録されたものです。ピーターソンとレイ・ブラウンのデュエットでまずその不思議なサウンドと即興演奏の世界に魅せられました。
次に聴いたのが歴史的名演となっているピーターソン・トリオrC・ジャム・ブルース」と「テンダリー」のライブ・レコーディングです。ピーターソン(P)、バーニー・ケッセル(9)、レイ・ブラウン(b)。このトリオのモーレツに蕎進するドライブ感は唖然とするものでした。爾来、私はこのドライブ感を追い求めて現在に到るといっても過言ではありません。
ピアノ・トリオといえば「ピアノ十べ一ス十ドラムス」が現在では標準編成ですが、これはビ・パップ以降の変化でして、ナット・キング・コールなども「ピアノ十ギター十べ一ス」の編成でした。個人的にはこの編成の音色が極めて好きでして、ピーターソン・トリオがギターを止めてドラムスを採用した時期は正直いってがっかりしたものです。
べ一シスト、レイ・ブラウンの存在感
その後、JATP(ジャズ・アット・ザ・フィノレハーモニック)のメンバーとして来日、日劇でコンサートをやりましたが、この時の事件が二つ新聞に載りました。(1)演奏中にピーターソンの体重で日劇のピァノの椅子がぐしゃりと壊れてしまったこと。
(2)客席2階正面に陣取った米兵グループのヤジがかなりひどかったので、休憩の時に退場させに行ったのがノーマン・グランツと巨漢のピーターソンだったということです。
彼のなま演奏に遭遇したのは私が上京してしばらくの頃ですが、有楽町の「ヴィデオホール」でのコンサートで、この時はレイ・ブラウン(b)、エド・シグペン(ds)でした。この時素晴らしい経験ができたのは、コンサート終了と同時に徹夜のジャム・セッションに変わったことです。われわれ日本のミュージシャンもぞろぞろ楽屋に入りました。そばにピーターソンが立っているのです!1特に「巨漢」という感じはしませんでした。物静かな人でした。
ピーターソン・トリオからレイ・ブラウンが抜けるという事件が起きた時は全くがっかりしました。二人の絶妙なスウィング感が今後聴けなくなるかと思うととても残念だったです。案の定、再度来日した時のトリオの演奏では、明らかにサイドメンに対する不満をかくしきれないピーターソンの顔色でした。
その後、ロスアンゼルスのホテルのラウンジでトリオの演奏を聴く機会がありましたが、例の気に入らないサイドメンとのトリオで、客もまばらという気の毒な状態でした。
その時不思議な体験をしたのですが、例の「テンダリー」が全く昔聴いたライブ録音と寸分違わない演奏だったのです。アメリカでもこういうことがあるのかと。つまりあの「テンダリー」は他のピアニストに多大な影響を与える結果をもたらした名演奏の一つで、リクエストする方もあの通りの演奏を再現してもらいたいという、特殊なナンバーになってしまっていたのです。
その後、リズム・セクションを解体してソロ・ピアノの時期が長くありますが、つぎに天才ニールス・ペデルセン(b)の出現によって、あの怒濤のドライブ感が復活したように思います。オスカー・ピーターソンの最大の特徴は、スタイルを超越したあの「怒濤のごときドライブ感」です。これとおなじ感覚を味わえるミュージシャンとしてエラ・フィッツジェラルドが挙げられます。両者ともレイ・ブラウンが深くかかわっているのも面白いですね。あ1これ大発見かも知れない。
ピーターソンを支えたサイドメンたち
今回紹介されるCD『オスカー・ピーターソン /ザ・グレイト・トリオ』は絶頂期のピーターソンの記録として貴重なものです。更にすごいところは、前半がレイ・ブラウン、後半がペデルセンと並べて聴けるところです。両者の違いがはっきり解ります。
レイ・ブラウンという人は、ベース・アンプの無い時代から他と一線を画する独特の音色を持つベーシストとして登場し、特にピーターソンのピアノとの音色の相性は抜群で、更に神技ともいえるベース・ランニングは、縦横無尽に走りまくるピーターソンのプレイをがっちりと支えて、独特のドライブ感を生み出しました。
ニールス・ペデルセンはレイ・ブラウン亡きあと名実共に第一人者の地位を獲得しでいるべ一シストであり、その華麗なプレイはお見事としかいいようのないすごいプレイヤーですが、私の好みからすると、ピーターソンとの音色の相性の点では、どうしてもレイ・ブラウンに軍配を上げたくなります。ただ、ベースの奏法自体がアンプの使用が主流になってから大きく変化しているので、同じべ一スとして比較すること自体に無理があることは当然です。
このCDでの新たな発見は、ジョー・パスのすごさです。トリオの歴代のギタリストは、バーニー・ケッセル、ハーブ・エリスとつづいていますが、ジョー・パスの出現は衝撃的であり、ピーターソンとのインタープレイは火花をちらしています。4曲目の「キャラヴァン」の絶妙なドライブ感のここちよさ1ヒ。一ターソンのピアノはドラムレスの時が最も光り輝く感じです。この一曲だけでもこのCDを手に入れる価値は充分にあります。
5曲目には珍しくピーターソンのオルガンが聴けます。与えられたオモチャを楽しんでいるといった雰囲気がほほえましいです。
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前田憲男
1934年大阪生まれ。57年から「ウエストライナーズ」に在籍。「lIPM」レギュラー出演、「ミュージック・フェア」音楽監督を担当。80年「ウインドブレイカーズ」結成。83年、レコード大賞「最優秀編曲賞」、ジャズ界の最高位に価する「南里文雄賞」を受賞。プレイはもとより作・編曲家としても日本を代表する一入であり、その音楽性は高く評価されている。
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