上海の田舎へ行く旅
もう普通の旅行は飽きたという友人の要望もあり、
上海で4年間住んでいた経験から、
観光地をただ通りすぎてきただけの旅行より、
地元の上海の異文化を肌で感じてもらえる感動の旅を
自分流にコーディネイトし始めたのが在住上海時代のこと。
もう、それから10年にもなる。
上海の田舎。列車の窓から眺める田舎の景色に、
あの家の中はどうなってるのだろう?と思いませんか?

上海の田舎の家へ行こうと企画した。
上海の友人衛愛分28歳。一人娘の詩吟ちゃん。ご主人はコックさん。ご主人の料理は上海市内のどのレストランより一番美味しい!
上海から車で1時間。春には愛分の家の周りは菜の花で黄色く埋め尽くされる。
大きな田舎の土間。庭には井戸があり、炊事と洗濯風景が当たり前の日常生活だ。
愛分のパパとママが笑顔で顔中クシャクシャにして出迎えてくれた。
「よく来てくれた!いらっしゃい!」握手をしてくれるパパの大きな手が暖かい。
今回は、村長さんへも6人で、表敬訪問だ。
友人達は、上海は始めてというメンバー。まして上海の田舎を歩くなんて、そのことが信じられないと大喜びだ。

村長はとても話の好きな人だった。
「上海も万博で都市計画が大きく変わってきている。万博予定地の住宅は全部壊して、この村へ移転してくる。愛分の家のような昔のタイプの家はいずれ壊して新しいタイプの家に変わる」
そんな村長の話に一番びっくりしたのは、愛分のパパだった。
「えっ!」という目をまん丸くした顔が忘れられない。
田舎の家の土間でテーブルを囲み、食事。友人の東さんが「こんな雰囲気で食事が出来るなんて、普通の旅行社のパックでは出来ないね!」と感動!
愛分のパパは「乾杯!」とお酒を勧めにくる。彼はかなりの酒豪だ。
中国の干杯は「全部杯を飲み干す」という意味。
「全部干杯は無理だよ~~」と言うと
「じゃあ、半分だけ干杯だ!私たちは友達だろう!」
「半分!干ぱ~~い!」
パパは「じゃあ、また半分干杯だ!」
結局、全部干杯させられた訳だ。
パパの作戦勝ちだ!
東さんも、重田さんも、いつのまにか真っ赤なほっぺで上機嫌。
実は、パパの得意は「タバコ攻撃」
中国では飲む席でタバコを勧めることが多い。
次から次へと、タバコを持ってきては「どうだ?」と勧め上手だ。
中国のタバコの味も興味のある東さんは、確か禁煙中だったはず?
じつに美味しそうに、プカプカとタバコを吸っていた。
お料理は、愛分のご主人が仕事を休んで、私達のために腕をふるってくれた。
「田舎の土間で食べているけれど、料理は一流の味だわ!」と感激の田中さん。
庭先には、鳥が餌をついばんでいる。
井戸で、いとこの姉さんがお茶碗を洗っている。
それを、中村さんが、籐の椅子に窮屈そうに座り眺めている。
しばし、中国の人になりきっているのだろうか?
のんびりと、田舎の風景と行きかう自転車を眺める。
日本人は、いつも忙しそうに走っている。
こんな時間をたまには味わうのもいいものだ。
ママが、みんなに手作りのスリッパをお土産に用意してくれていた。
中国の田舎のお母さんが一刺し一刺し縫ってくれたスリッパ!
スリッパを胸に抱きしめて感激の田村さんだった。
ママの暖かい気持ちもうれしかった。

美味しい料理と、パパの人柄と、ママの暖かい気持ちをいっぱいもらって、幸せな一日。 たった二泊三日だったが、もう1ヶ月も上海に居る気分、一体これは何故なのだろう。
夢の中を歩いているような気分の上海の三日だった。
また、愛分やパパママに会いに行こうね。
いつがいいかな?と気の早い太田さん。
ただ、観光の旅ではなく、これだけみんなが喜んでくれたのは、コーディネイトをしていて、私まで感動をもらった旅だった。
市野 政子 いちのまさこ
59歳。主人の転勤により1994年から1998年まで上海在住。異文化を肌で感じるチャンスだと思い、上海をルポ。元上海農業大学日本語科講師、四川省南充市蚕糸学校日本語科非常勤講師。「上海庶民生活事情」日中出版より出版。近鉄カルチャーセンターにて「上海庶民生活事情」講演。和歌山在住。